南アルプス赤石岳の山頂にある赤石岳避難小屋。
その管理人を18年間勤めた榎田さんと、相棒の後藤智恵子さんが今シーズンで引退されました。

台風で道路が崩れてアクセスが寸断された中、長野県の登山口から山々を越え、往復5日を歩いて最後の挨拶をしに行ってきました。

赤石岳といえば、南アルプスの南部に位置し、秘境中の秘境。

山奥にある登山口までのアクセスが長い上、送迎バスで1時間、更に標高差2000mを9時間掛けて登らなければなりません。
このような場所に辿り着けるのはよほどの変人だけです。
ですからここまでやってくる人間はみな選ばれし人間です。

そんな赤石岳に私が最初に訪れたのは確か2014年のこと。
パール富士を求めて千枚岳から歩いてきて、赤石岳避難小屋へ泊まりました。

3泊の予定でしたが全日雨となり落ち込んでいるところ、
「もう一泊していけよ」と優しく声を掛けてくれたのが管理人の榎田さんでした。

榎田さんは、山屋としては珍しく富士山の写真も熱心に撮られていて、親しくなれました。
また管理人のサポートをしている智恵子さんの優しさとサービスに触れ、あっという間にこの小屋の虜になってしまいました。

それから、この山小屋はとてもおかしくて、登山者が下界から酒を担いで上がってきて、連日宴会をしているのです。
管理人の榎田さんも大の酒好きで、連日楽しく飲んでいます。
初めて訪れた登山客でも、すぐに輪に入れて、あっという間に仲良くなる。
そういう口コミで、年々”常連”と呼ばれるお客さんが増えていっていると思われました。

私も大の酒好きですので、当然意気投合で、楽しい楽しい日々を過ごさせてもらいました。
当時から定職に就いていなかったので、一度来れば4泊5泊と泊めてもらい、長いときは14日ほど滞在したこともありました。
晴れたら毎日富士山の写真を撮り、夜は常連さんや登山客と酒を飲み、榎田さん、智恵子さんと話をする日々でした。

こんなに楽しい日々がいつまでも続かないことは分かっていたので、険しい道のりですが、あれから毎年通っていました。
ハッキリ言ってHome以上のHome。
”アットホーム”という言葉がありますが、その上に”アット赤石岳避難小屋”という言葉を作りたいくらい、温かい場所でした。

そこに憎きコロナウィルスが訪れ、2020年と2021年は休業に。

ようやく営業を再開した2022年は、定員を大幅に減らし、完全予約制と、厄介な条件が付いてきました。
そこに榎田さんと智恵子さんが今シーズンで引退されるとのニュースが入ってきて、「いよいよか」と覚悟はしていたものの、最後に会いに行く計画を考え始めました。

そこからは想定外の事態ばかりで大変でした。

例年、撮影に訪れている9月に入ってから、天候不順が相次ぎ、なかなかチャンスがありません。
自由に動ける身なので、日を決めるのも逆に難しくズルズルと日程は後ろ倒しに。
さらに定員が少ないため予約も取れるかどうかという問題が絡んできます。

いよいよ9月も後半に差し掛かったところで、重大なことに気づきましたが、なんと今年から営業期間が5日短くなっており、9月25日が最終営業日でした。

そして最悪の知らせは、台風被害により登山口までの道路が通行止め。
東俣林道は崩れやすい道路で毎年のように通行止めになりますが、最後の最後にこのタイミングでやられてしまいました。

榎田さんも、18年間務めた最後のシーズンの終わりがこのようになってしまい、大変落ち込んでいる様子をTwitterに報告していました。
道路が通行止めでは登山客が入って来れず、予約は全て取り消し、常連さんも集まれず、最後に計画していた大宴会も全て無くなってしまったようです。

これではあまりにも残酷で寂しい終わりです。

コロナ明けの最後のシーズンに、再会を楽しみにしていましたがこの結果。

お二人には山を降りてから”下界”で会うこともできるでしょうが、どうしてもあの小屋でもう一度会いたいという気持ちがいつまでも消えませんでした。
お二人は”山屋”で、自分は写真屋なので、フィールドが少し違うんです。
その山屋と写真屋を繋いでくれたのがあの避難小屋であったので、あの場所である必要があった。

そう思っていたところ、別の山から縦走をしていけば赤石岳に辿り着けるのではないか、というプランが浮上しました。

少し前にネット上で、縦走した写真家のブログを読んでいました。
また知人に相談すると、直近でも縦走して辿り着いた人がいるとの情報も。

更に次の台風が来ていて、どういう状況になるか分からない中、最後のプランを練り始めました。
長野県の鳥倉林道から入って三伏峠、小河内岳、荒川前岳を経由していくコースです。

そもそも、片道コースタイムが16時間程度で、順調に行っても2日掛かる道のりです。
このような行程をかつて歩いたことがありません。
どうなるかは未知数。

幸いだったのは、赤石岳行きに備えて一度富士山に登山していたことです。
コロナ以降、ひどい運動不足でしたが、2週間前に富士山で少し体力を付けてきました。
これがなかったら間違いなく断念だったかと。

そして天気予報を見て、「これなら行ける」とはじき出したプランは、25日からスタートして26日に到着するコース。
管理人も小屋閉め作業のため、27日に下山すると宣言していました。

「遠いけど会いに行ける」と気持ち高ぶり、サプライズ登場も良いかと思いましたが、念のため、榎田さんに確認してみると…、なんと下山日が26日に早まったとの連絡。まさか。

これで一気にプランが崩壊し、1日早めると台風直撃の中を登らなければいけなくなり、ついに断念することに。。。

意を決して行動に移そうとしたところでしたが、まさか予定変更で終わってしまうとは。無念。。

あまりに無念すぎて、これまでのことを思い出しながら、「会いに行けたらどうだったかなぁ」と空想にふけりました。

そして。
どうしても諦めきれなくて、捻り出した答えが、「プランを半日早める」でした。

自分でも「その手があったか」というウルトラC。
一度は諦めた24日のスタートプランでしたが、24日の朝は無理でも24日の午後ならいけると。

このあたりからもはや、一旦「会いに行く」は忘れて、自分との戦い、登山プランの実行、純粋に山歩きを楽しみたい、などと色々な気持ちが積み重なっていきました。
これは自分の中でのチャレンジだ、と。

荷物はどこまで軽量化するか、食料はどれだけ持っていくか、体力は本当に持つか、何時間歩き続けられるのか。
疲労、食糧不足、怪我などのトラブルがあったとしても下山に2日掛かりエスケープルートなし。
本当に大丈夫か。

大きすぎる不安もありましたが、期待と、楽しみと、前向きな熱意が勝りました。

睡眠時間や準備の時間、そして直撃している台風をやり過ごす必要があり、自宅を出発したのが24日の昼。
長野県の鳥倉林道を上がり登山口まで5時間の運転。

登山口でパッキングをして出発が24日の18時半。ちょうど日が暮れたところ。

鳥倉登山口から小河内岳避難小屋まで約7時間のナイトハイクで、深夜1時に小河内岳避難小屋着。
先客6名が寝ている中、つかの間の仮眠。

25日、AM4時には目覚めて、3時間睡眠で再び歩きだす。

幸いにも天気だけは穏やかで、疲れてはいるものの順調なペースで進めました。

疲労もかなり出てきて帰りの体力が残らないような気もしたが、無理しても歩き続けて、25日12時過ぎに荒川前岳。

通常の体力であればここから荒川小屋に降りて泊まりたいところだったが、最後の宴会ができればと更に無理をして行く。
荒川小屋からの地獄の登りを最後の体力で上りきって、日暮れギリギリの16時半過ぎにようやく赤石岳避難小屋に到着。

3時間睡眠、歩行18時間にてなんとか目標達成となりました。

一度は「諦めた」と伝えていたので、榎田さんもビックリ。
歓迎してもらえ、集まったメンバー総勢6名で最後の宴会となりました。
榎田さんにとって本当に最後かもしれないこの場所での酒です。

二人が営む赤石岳避難小屋の最終チェックインの客となり、夜も沢山お話をさせていただきました。

逆に、台風がなく通常営業だったら予約はいっぱいで、常連が集まり、別の意味で来れなかったかもしれません。
結果オーライです。
会えました。最後に。

そして迎えた営業終了の翌朝、9月26日の富士山の写真を撮りました。

辿り着けるかどうかさえ怪しかった今回の旅、荷物軽量化のためにカメラを置いてこようか悩んだほどです。
そこは少し写真家の意地があり、GFX100Sと軽量のGF35-70mmの1本だけを持ってきました。
なんとかカメラを持って到着できて良かったです。

26日以降のプランは、現地で天気や状況を見ながら判断する予定でした。

図々しくも、無人になった赤石岳避難小屋に一泊して、管理人の下山を見送るというのが当初プランでしたが、
天気が崩れる予報が早まったことと、下山の体力が弱っていることを考え、26日中に下山の駒を進めることに。

結局、26日の昼に、榎田さん、智恵子さんと、次期管理人の清水さん、荒川小屋管理人の中岡さんの4人に見送られ、赤石岳避難小屋を最後の客として出発。
管理人たちの下山の1時間ほど前だったと思われます。

26日夕方に中岳避難小屋に到着して一泊。
27日に荒川前岳で撮影し、27日昼過ぎに小河内岳避難小屋まで戻って一泊。
ひたすら爆睡して28日の朝から最後の下山、28日12時過ぎに無事に車まで戻ることができました。

また元気があれば詳細な行程ブログを書こうかと思っています。

今回の山行は、当然ながら一生の想い出となりました。

榎田さん、智恵子さん、大変お世話になりました。
「寂しいけど、楽しかった。」これに尽きます。

そしてお疲れ様でした。

https://www.yamakei-online.com/yama-ya/detail.php?id=2081
https://twitter.com/chieko3121/status/1574172473947754496

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アップロード日: 2022年10月4日

自己評価: ★★★★☆

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