御殿場市から望む月の入りのシーン。
ちょうど前日夕方のパール富士で東空へと放たれた月が、
南の空を回ってこんどは西の空へ沈んでいくタイミングでした。
一晩で2回目のパール富士。
冬型の気圧配置が続き、よく晴れた日がしばらく続いていました。
この朝もよく晴れて撮影できるかと思っていましたが、どうやら夕方から
湿気のある風がやってきたようで、富士山周りに雲が湧き出していました。
本当は千葉の房総半島まで大遠征して海越しのパール富士を狙っていたのですが、
この雲が多い状況ではリスクが高いと判断して、近くの御殿場にプランを変更しました。
やはり予感が当たってしまい、富士山付近には夜中からずっと雲が湧いていました。
夜明けの頃になってもその雲は晴れる様子もなく、富士山の山頂すら見えない。
そんな状況で迎えたパール富士は、月と富士山をまともに写すことは叶いませんでした。
しかし、この朝の中で、富士山にこびりついた雲がもっとも少なくなって、
かろうじて富士山の山頂が見え隠れしているこの時間の写真が、気に入りました。
月はもう富士山の裏へと沈んでおり、その形は見えません。
しかし確かな存在感を持って、富士山にまとわりついた雲を光らせています。
一方で撮影方向とは逆の背後から、夜明けが近づいて富士山は怪しく照らされています。
なんとも絶妙な光の加減、そして雲の動きを感じるショット、実はなかなか撮れない一枚です。
最近、富士山写真で圧倒的な存在感を示している大山行男氏との交流があります。
彼は「固定観念にとらわれない」ということを大事にしています。
今日の狙いは「月と富士山」を撮ることだった。
しかし雲が湧いて富士山はよく見えないし、月も隠れてしまった。
これは失敗なのか?
おそらく現地で撮影していたほとんどの人が、「今日は雲が多くて失敗だ」と言っていたはずなのである。
でも私は、大山氏のスピリットを少しでも受け継ごうとしているのです。
思い通りに撮れなかったから失敗か?
そうではない。
予想もしていなかった展開、想像もしていなかった光景。
それこそが「新しい写真」となって、次の時代を作り出すのです。
普通の人が「失敗作」と思ってしまうような作品を、堂々と自分の作品にするセンス。
常に力のある写真家は、そういった強さがあると思っています。
世間一般や常識にはとらわれずに、自分が良しとしたものを推し出せる勇気を持っている。
もしアートの世界でトップを行きたいのならば、そういった考えを持っていなければいけないのだと思いました。
アップロード日: 2017年1月15日